2017年12月15日 更新

【救い飯】 第1話「お江戸あやとり〜食事が"映え"る、カジュアル懐石〜」

【救い飯】 第1話「お江戸あやとり〜食事が"映え"る、カジュアル懐石〜」
35歳、元ひもの工場社長川上民生の飲食開業日誌。
愛するひものと家族を失い絶望した川上を救ってくれた食事「救い飯」、「食」で救われた川上が「食」で人生の再起を図る開業一代記。
人は誰しも人生に迷い、つまづき、立ち止まる…「もうおしまいだ…」絶望に打ちひしがれる時…そんな時でも不思議とお腹は空くもので、そんな時、空腹を満たすと少し元気が出るものです。

この物語の主人公、川上民生(35)は父親から受け継いだ千葉の干物工場を潰してしまい、妻や娘とも別れ、東京で人生の再起を目指す日々を送る。
再就職は連戦連敗、暗中模索の暮らしの中で様々な「食事」に救われ、背中を押されてきた川上。
そして彼はいつしか、自分自身が様々な食事で救われたように、自分も誰かを救う食事を作りたいという思いを抱きます。
誰かを笑顔にし、悩みや迷いから救うことの出来る「救い飯」、そんな究極の「救い飯」を提供するお店を開くという新たな夢を見つけ、開店準備に奔走します。

まずは東京に数多ある飲食店をくまなく調べ、理想とする飲食店を作る為には何が必要なのか実際にお店に足を運んで調べようと決意する川上…


10月の夕暮れ、川上は新宿にいた。
伊勢丹デパートの屋上。
静かに闇を落とす新宿のビル群を眺めながら、川上は今日新宿に来た目的を思い返していた。
川上は飲食店を始めることを決意していた。

干物に半生を捧げてきた男が、自らの人生の礎というべき父から継いだ干物工場を失い、家族と離れ紆余曲折を経た後に辿り着いた、遅すぎる「夢」の始まりだ。
これまで干物を作ることを至上の喜びとしてきた男が、焼き鳥屋での勤務を経て、目の前のお客さんに「おいしい」と言ってもらう未知の感動を経験した結果である。

川上は理想のお店を思い描きながら、先ずは自らが「行ってみたい」、「また行きたい」そう思える店はなんなのかと模索していた。

そして、今日、彼は日本有数の繁華街を有する新宿に来たのだった。

しかし新宿と一口に言っても広い…
先ずはどこへ行こうか…
先ずは三丁目あたりから攻めるか…
伊勢丹を後にして新宿三丁目方面に歩き始める。
「やっぱり賑やかだな」
平日の夜、新宿三丁目は多くの人で溢れている。

居並ぶ飲食店を眺めながら川上は歩く。

いくつもの飲食店から賑やかな笑い声が漏れている。
皆、楽しそうだ。
「世の中、こんな楽しそうな場所あったんだな…」

繁華街を歩きながら、フト、川上はもがき苦しんだこの数年に思いを馳せる。
飲食店で働いてはいたが、自らが進んで飲みに行くようなことはなかった。
ただただ、気持ちのどん底を徘徊していたのだ。

川上はとんねるずが好きだった。

人生で最初に買ったCDは「一番偉い人へ」だった。
テレビで目にしたその曲を川上は気に入り、父にせがんだ。
干物の修行をさぼらないという条件で父はそのCDを買い与えてくれた。

しかし、家に帰り8センチCDをSONYのドデカホーンにセットしスピーカーから流れる音楽に耳を傾けていると、川上の気持ちを掴んだのは「一番偉い人へ」ではなく、カップリングの「どん底」という曲だった。
「一番偉い人へ」の歌詞「カタルシス」という言葉が川上にはどうしてもわからなかった。
父に聞いても「お前が大人になったらわかることさ…」と遠い目をされるばかりだった。
「親父、知らないんだろうな…」まだ小学生の川上にもそれはわかったが、彼は父親への落胆を飲み込んだ。
ある時には「嫌った行列」という歌の一節に父親が嫌悪感を示したこともあった。
「行列できなきゃ商売上がったりだよ!」と酔った父親はスピーカーの中のとんねるずを叱責した。

「なにか難しい歌なのかな?」
幼い川上はこの歌になにか得体の知れない深みを感じていた。

そんな川上にカップリング曲の「どん底」は染みた。
「生きてりゃついてないことだって順繰り廻ってくるだろ しょうがない」
そんな小学生でも理解できる歌い出して始まるその歌はサビで「どん底から今這い上がれ 自分の腕で」と繰り返した。

20数年の時を経て、今川上は自分にその言葉が向けられているのを感じていた。

「必ず這い上がって見せる」
新宿の夜空に誓いを新たにする川上であった。
再びお店のリサーチに歩き出す。

「それにしても、もっと参考になるところはないだろうか…」
新宿三丁目には彼の気持ちを掴むお店は見当たらなかった。
「良さそうな店は多いけど、なんかこう、熱量を感じたい…」
今、川上が求めているのは衆人の「楽しい」という感情が結集したような華やかな場所だ。

「新宿で華やかなりしと言えば…」
「やっぱあそこか!」
「あまり行ったことがないけど、やはり新宿といえば歌舞伎町だよね!」

川上は日本有数の歓楽街「歌舞伎町」へ歩みを進める。

「お、ALTAか…」
一度、新宿駅前に戻った川上は東口駅前でALTAを見つけた…

「やはり新宿と言えばここか」

それにしても人が多い…
新宿駅の乗降者は1日で約340万人、世界一位だそうだ。
とめどなく流れる人波に取り残されたような気持ちなる川上。

「この中でどれだけの人が自分の人生に満足しているのか…」
東口を背にして歌舞伎町に向かう。
もう10月だというのに、繁華街の裏通りは熱気を帯びている。
思わずジャケットを脱ぐ川上。

「暑いな…」
同じ新宿なのに、三丁目と比べると気温が上がった気がする。
気候の問題ではなく、人々の熱気が空気を伝搬してこの街の温度を上げているのではないだろうか…
「なんだろう、何かわくわくしてくるな…」
押し寄せる人の波に揉まれながら、川上を高揚感が襲う。
何か楽しいことが起こりそうな予感だ。
交差点で信号を待つ人の群れは、これから始まる夜を待ちわびる期待感に膨らんでいる。
信号を渡り歩き出す川上。

「うわ!すっご…」

きらびやかな歌舞伎町のネオンに圧倒される川上。
「ごちゃごちゃしてるけど、楽しそう!」
居並ぶビルは様々な電飾で彩られ、
それは川上の故郷、千葉の海辺では見ることの出来ない景色だ。

巨大な「歓喜」の渦に吸い込まれるように歩みを進める川上。
すると、ネオンの谷間を進む川上の視線をあるビルが奪った。

「ん?なんか急に綺麗なビルがあるな…」
まだ出来て間もないのだろうか。
雑居ビルと呼ぶには小ぎれいな外観が川上の目を引いた。
ふと看板に視線を移す。
ある店名が彼の心を掴む。

「あや…とり?」
あやとり、それは祖母に教えてもらった彼の幼い頃の愉しみの一つだった。
愉しみであり、特技でもあった。

川上が幼い頃に好んで見ていたアニメの中で、脆弱で貧相なメガネをかけた主人公の少年が「あやとり」を手にした瞬間に輝きを放つ…そんなシーンがあった。
それまで少年をバカにしていた誰もが、そのあやとりの美技に羨望の眼差しを向ける。
川上は「何か一つ、人を楽しませることのできる得意技を持とう」そう思い、祖母にあやとりを師事したのだった。
「あやとり」その四文字に優しかった祖母との思い出が蘇る。
「あやとり…6Fか…」

「これも縁か…ちょっと覗いてみようかな」

優しかった祖母に手を引かれるように、川上はその6Fのお店に向かう。

「おわ…!すごいな」

エレベーターを降りると、綺麗にディスプレイされた日本酒が川上を迎えてくれた。
出迎えてくれた店員さんによると、30種を超える蔵元直送の日本酒が揃えられているそうだ。
粋な演出にお店への期待は高まる。

「いらっしゃいませ!」
エントランスを過ぎ奥に進み扉を開けると元気な店員さんが迎えてくれる。

店内は歌舞伎町の喧騒を忘れたように明るく清潔で、とても品の良い雰囲気だ。
「高級旅館みたいだな」
高級旅館に馴染みのない川上だが、そんな言葉が口を衝いて出た。

「こちら、お品書きになります」
カウンターの席に通されると、巻物のようなメニューを渡された。
「おお!なんか、凝ったメニューだな」
円筒状のメニューを開き、文字を追う。
「ハイボールで!」

歩き疲れた川上、喉が強炭酸の刺激を求めていた。
ハイボールを注文する。
やがて綺麗な白木のカウンターにハイボールのグラスが届けられた。

「おつかれ、今日の俺」

グラスに視線を預け、自らの労をねぎらう川上。
労といっても、今日はただリサーチと称して新宿を散歩しただけだが、晩酌の前ではそんな自戒の念は消えてしまうのが川上という男だ。
それが長所でもある。
やがて料理の注文を終えると、お通しが届けられた。

「お、これはまた上品そうなスープ!」

「スープ?いや、こういうお店だとお椀っていうのかな?」

あまりに上品な佇まいに気圧されるが、まずは味見を…
「ふむ…」
「ふむふむ…」
「うまぁ… しみる…」

上品な見た目そのままに、川上を包み込む様な優しい味のスープであった。



「うまい!もう飲んじゃおう!」
あまりの美味しさにスープを一気に飲み干す川上。
「ふわぁ…こりゃ美味い」

飲み終えた川上を優しい時間が包む。

続いて川上はさきほど注文した焼き鳥を待っている。
焼き台は目の前にあり、職人さんが焼いている様子が間近で見てとれる。

「臨場感あるな」

普通、焼き場と客席の間にはガラスの隔たりがある。
お客さんに油がはねたり危険なことが無い様にという配慮なのだろうが、せっかく調理場が見えているのに、その一枚の隔たりで「生」の感覚、ライブ感が失われてしまうことが多い。

ただ、このお店はその隔たりがない。

今、まさに自分の目の前で焼き鳥が調理されている。


それにしても…
「この職人さん、柄本時生さんそっくりだな…」
やがて柄本時生によく似た職人さんが「はいよ!」と声を上げた。
「え?なになに?なに、その大きいしゃもじ!」

その大きなしゃもじに乗せられた焼き鳥を店員さんが受け取り、それは川上の前に運ばれた。
「あぁ…なるほど…そう使うのね…」
焼き場と客席の間に仕切りが無い為に、どうしても少し距離がある。
しかし、その距離を逆手に取って、アトラクション的な演出に変える。

料理が届けられるだけの無機質な工程が、目の前で焼いて、しゃもじに乗せて届ける…というアトラクション的要素を介在させることでエンターテインメントに様変わりしていた。

現に川上自身が、楽しい気持ちになっていた。

「なんか、普通に焼き鳥食べるより楽しいぞ」

ふと視線を横に向けると、となりのお客さんも同じ気持ちのようで、笑顔が咲いている。

「素敵なお店だな…」

素直な感想をポツリと口にする川上。

「焼き鳥もおいしそうだ…」
「うわ!焼き鳥もうまい!」
「あ、でも待て待て、焼き鳥にはビールじゃない!」
「すいません!ビール一つ!」

慌てて瓶ビールを注文する川上。

すると…
「はい!ビールですね!」
と、柄本時生に似た職人さんがこちらを向く。
正面を向いた顔は柄本時生さんそのものだ。

「え?僕、焼き鳥じゃなくてビール頼んだんですが…」

「こちらですね!」
「ええー!ビールそこ!?」

なんと大きなしゃもじでビールが運ばれてきたのであった。
「あ、じゃあいただきます!」

自ら腰を上げビールを受け取る川上。
「なんか、いいな。この演出も」
普通に店員さんから運ばれるより、テンションが上がるのは何故だろうか…

柄本さんから直接ビールを受け取り、グラスに注ぐ川上。
「こりゃ楽しいし、うまいぞー」

「それにしても、なんでこんな楽しいのかな…」
「なんか理由がある気がする…」

「うちは「魅せる」を大事にしているんですよ」
突然、柄本さんが話しかけてきてくれた。
「料理も彩り豊かで遊び心ありますし、なにより僕らスタッフがお客さんに楽しんでもらえる様に、いろいろと考えてやってます。この演出もその一つですよ」

柄本時生さんの言葉に聞き入る川上。
「そうか…俺はお店と料理に魅せられていたのか」
妙に腑に落ちた川上はフト考えた。
偶然か必然か…目の前の職人さんは俳優柄本時生さんによく似ているが…
でも、まさにこのお店のスタッフさんは皆、役者なんじゃないかな?

お客さんを楽しませる為に、いろんな演出が用意されていて…
このお店はまるで劇場みたいだ。
役者の皆さんが客である自分を楽しませてくれる。

「役者…か。これはヒントになりそうだ」
川上が自身の思い描く飲食店の理想の一端を掴んだその時…

店員さんが思わぬ声を川上にかけた…

「お客さん、今日のオススメは干物なんですがいかがですか?」

「え!? 干物ぉ!?」

すっとんきょうな声をあげる川上。すぐに言葉が継いで出る。

「すぐに持ってきてください!」

干物一筋十六年。
人生の半分を捧げて来た干物に関して、川上は並々ならぬ思い入れがある。
干物がオススメと聞いては黙っていられない。

すかさずお店のインスタグラムをチェックする。

「確かに今日のオススメは干物になってるな…」
「どうぞお客さん!どちらにしましょう?」

目の前に干物が差し出される。
「おお…なかなかの揃えてるじゃない…」
それは干物に半生を捧げた川上からしても見事な魚たちだった。
まさか大都会新宿の中心でこんな出会いがあるとは…

「のどぐろでお願いします」

川上は即座に注文を告げる。
ここはこのお店の実力をのどぐろで計ろうというのだ。
干物職人川上のプライドが騒ぐ。

ほどなくしてのどぐろがカウンターに届けられた。
「うわ!まじか…」
それは干物で有名な千葉の港町で「干物の神童」と騒がれた川上の目から見ても一級品の出来栄えであった。
食するまでもなく、川上にはある程度わかる。
魚の身の分量に合わせた絶妙な焼き加減、肉厚な脂の乗ったのどぐろのポテンシャルを最大限に引き出した調理が施されていた。

「香りも良い…か」
申し分がない。
早速、食べてみる。
「おお…こりゃ美味いぞ…」
「いただきます!」
干物に敬意を評して、本日2回目の「いただきます」が出た。

「ほう… ほうほう…」
「これは…」
「うんめぇーーーーーー!!!!!」
「うまいよ!こりゃもう日本海クラスだよ!歌舞伎町と日本海つながっちゃったよ!関東甲信越縦断だよ!味覚がMAXとき乗っちゃったよ!」

思わぬ絶品干物との対面に感動する川上。

「なんだか、うれしい。おいしいし。」

「あやとり」のスタッフは川上が干物屋だということは当然知らない。
今夜の出来事はただの偶然に過ぎないが、それでも川上民生という一人の人間がこのお店でとても幸せになれたということは紛れもない事実だ。

そして、川上本人が何よりその事実を実感していた。

「料理、演出、そしてお店スタッフの心意気…お客さん誰しもが幸せになれるお店を作らないとな」
祖母との大切な思い出「あやとり」
その名前に惹かれて入ったこのお店で、川上は飲食店を営む為に大事なことを学んだ。

帰りのエレベーター、あやとりでの食事を回想する川上…

「柄本さん似の職人さん、良かったな。他の店員さんも皆、感じよかった。なんか接客されてて楽しかったし…演じるということ…エンターテインメントもやっぱ大事だな。久々に芝居でも見てみようかな…」

お江戸あやとり

  • 最寄り駅:JR各線【新宿駅】東口 徒歩5分
  • 所在地:東京都新宿区歌舞伎町1-18-9 WaMall 歌舞伎町 6F
  • 営業時間:17:00〜24:00(L.O 23:00)
  • 定休日:なし
  • 席数:50席
  • お通し:480円(税抜)
  • 公式HP:http://oedo-ayatori.tokyo
  • その他:全席禁煙/掘りごたつご宴会席あり
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